ガイドをしていると「カヤックやSUPのガイドになるには資格がいるのですか?」という質問をされることがあります。ガイドの仕事に興味をもってもらえることはガイド冥利につき、うれしいものです。


日本ではガイドやインストラクターになるために必ず取らなければならない資格はありません。ただ、まったくの未経験や数回漕いだことがある程度でツアーを行い、もし事故を起こしてしまうと、お客様にご迷惑をかけることはもちろんのこと、ガイド本人も多大な賠償責任を負うことになります。そういった事故を防ぐために、ガイドとしてのスキルや知識の学習、利用フィールドの熟知、経験は非常に重要です。

そして、万が一事故を起こしてしまったときの責任ある体制をつくっておくことも職業ガイドには必要なことです。重大事故が多いパドルスポーツ業界においては、傷害保険・賠償責任保険には、信頼のおけるガイド資格をもっていないと加入できないことが多くあります。ゲストから参加費を頂く「仕事」としてインストラクター・ガイドを目指す方は、スキルや知識をもっている証明となる資格取得を目指すことも大切だと考えています。

 

この記事では、SUPやカヌー、カヤックのインストラクター/ガイドになるための方法について説明していきたいと思います。

 

インストラクターとガイドの違い インタープリターとエンターテイナー

インストラクターガイドという言葉を聞いたことがあるけれども、違いについてはよく把握していない方も多いのではないでしょうか?インストラクターという言葉は、「インストラクション」を与える人、つまり技術を顧客に伝え、指示をし、上達を促す、という意味を含んでいる言葉です。つまり、インストラクターは、個人の趣味としてパドルスポーツを楽しむ人たちに、そのスキルを伝授するのが仕事です。顧客よりも当然スキルを持っている必要があり、さらにインストラクター個人のスキルだけではなく、教えるスキル(ティーチングスキル)も重要な能力になってきます。

一方、ガイドという言葉もあります。ガイドという言葉が意味する範囲は広いですが、guide「~を導く、~を案内する」という言葉を考えた時、本来の使い方としては、スキルを持った趣味客が叶えたいこと(急流を下りたい、岩場を含む特定のエリアの登山をしたい、など)を実現させるため、先導役として顧客を安全に導く、という意味があります。こういったガイドの場合、危険なエリアを案内する必要があるため、その安全管理スキルは高いレベルにある必要があります。

しかし、現在の日本では、上記の意味よりもむしろ観光やリフレッシュで水辺に訪れる顧客を楽しませる人、つまりエンターテイナーとしての役割や、自然の様々な事象をわかりやすく伝えてくれる人、つまりインタープリターとしての役割を、ガイドと総称して呼んでいることが多いのではないでしょうか。エンターテイナーやインタープリターが業務となるガイドの場合は、「参加者が楽しんで、リフレッシュしてもらうための技術、コース設計、難易度設計をする技術」や「自然について深く理解し、顧客がわかりやすいように工夫して伝える技術」がより重要になってきます。

 

インストラクターやガイドに向いている人

「ガイドになりたい」と思う人の中には、パドルスポーツの趣味が高じて、ガイド業に興味をもつことを考えると思います。

ただ、実際にガイドになれば、「自分自身がパドルスポーツで遊ぶのが楽しかったからガイドになる」という考え方では、長期間ガイド業を続けていくのが少々厳しいこともあろうかと思います。実際の仕事は、「自分が楽しくなる」ことよりもむしろ「お客様に楽しんで頂くこと(エンターテイナー)」となり、お金を払ってくださるお客様のことを最大限に考えなければなりません。またインストラクターであれば「お客様にスキルを授けて、お客様自身の自己実現を助けること」が業務となります。この場合、自分自身のパドルスポーツのスキルももちろん必要ですが、むしろ教える技術(ティーチング、コーチング)がより重要になることも多々あります。自分自身もパドルスポーツが好きなことは重要なことですが、自身が何に向いているのか、興味があるのか、好きなのか、を考えることも重要です。

また、自分自身が楽しみとしている趣味の時間以上に、安全に対する考えは厳格である必要があります。ガイドツアーにおける楽しさは、安全なガイドツアー、つまりガイドへの信頼と安心感をベースに成り立ちます。安全面においては、常に誠実で慎重な思考判断ができることもガイドに欠かせない資質です。

 

インストラクターやガイドになるための3つのルート

1、技術を学ぶために既存のツアー会社/ガイド会社へ就職する

もっともスタンダードな方法は、技術を学ぶため、既存のツアー会社/ガイド会社へ就職することです。経営やマーケティング、安全管理、楽しませ方など様々なスキルを学ぶことができます。JSPA(日本セーフティパドリング協会)の公認スクールは特に安全管理や基準が日本でも特に高く、シビアな環境も含めて、現場レベルで貴重な経験をすることができるでしょう。

2、アウトドアガイド養成学校へ入校する

日本にはいくつかアウトドアガイドの養成学校があります。ただし、卒業してすぐ独立して一人前のガイドになれるということは少なく、卒業後にツアー会社へ就職し、さらに経験を積む必要があります。

3、スクールに通いスキルを身に着けながら資格取得へ

ツアー・ガイド会社への就職ではなく、スクールのリピーターとなり、パドルの経験を積みながら資格を取得し、開業を目指すことも1つの方法です。JSPA(日本セーフティパドリング協会)公認スクールでは、パドルスポーツ愛好家に向けた「安全管理講習」や、資格取得を目指す「事前講習会」を開催しています今年も日本全国、多くのスクールで安全管理講習(セーフティ&レスキュープログラム)を実施しました。(開催地等詳細はこちらのページ)まずは、一般パドラーとして漕艇スキルだけでなく安全管理についての知識やスキルを高め、ガイド・インストラクターへの素地をつくり、ステップアップされることをお勧めします。

 

 

インストラクター業とガイド業のビジネスの違いとは? 

インストラクター業は主にスキルを伝授することが大きな業務の柱になります。もちろんそのためには、そういった趣味を持つお客様が多くいる業界を選ぶことや商圏を選ぶことが重要になります。インストラクターの仕事のうち、スキルの伝授や教育は、誰にでも簡単にできることではないので、競合の脅威にさらされる危険性が相対的に少ない業務ということも言えます。顧客からの評価も、「価格が安い」ではなく、「教え方がうまい」「このインストラクターのほうが上達が早い」など、金額に関係なく、属人的で、簡単に真似できないものとなります。
結果としてリピーターが増え、リピートしやすい比較的近い場所に住む顧客が過半数を占めるのもインストラクター業の特徴になります。(ただし、LCCが飛んでいるなど、アクセス(特に交通費)が良好な場合、遠隔地であってもリピーターが多いということはよくあることです)またガイド業のうち、本来のガイド業(顧客の実現したいことを助け、案内する)は、上記のインストラクター業と近似しています。危険度が高いフィールドを案内することは誰にでもできることではないため、価格競争に巻き込まれたり、競合との争いに巻き込まれることは少ない領域ですが、市場規模が小さいと苦労する領域でもあります。

エンターテイメントとしてのガイド業を主軸にビジネスを考えた場合、顧客は主にスキルを学んだりすることが目的ではなく、「ただ景色がみたい」「観光名所だから来た」など、誰でも普遍的に提供できる価値を求めていることが多々あります。こういったビジネスは、競合が多く、価格競争に相対的にさらされやすいビジネスであるといえるでしょう。マーケティングにも当然力をいれる必要があり、ガイド以外の知識をつける必要が多い世界です。ただし、市場規模が大きいのは後者の世界です。もし独立することを念頭に置くのであれば、どういったビジネスをどういった商圏で誰をターゲットに行うのかを想定したうえで、学ぶ先のスクールを選ぶ必要があります。

 

本気でガイドを目指すとき、まず最初に考えておかなければならないこと ~ガイドのキャリア~

ガイドとしてのキャリアを考える際、重要な選択肢の一つは、将来的に自分でビジネスを立ち上げるか、あるいはスタッフとして働き続けるかということです。もし独立開業を目指すのであれば、まずは自分が提供したいサービスや理想の客層、商圏、言語、ツアー内容について具体的なビジョンを持つことが必要です。また、人を楽しませたり、教えることが得意かどうかといった自身のスキルも重要な要素となります。こうしたビジョンに合致する会社で働くことで、必要なスキルや経験を積むことができ、将来の独立に向けての準備がより効率的に整うことでしょう。

 

経営者となったガイドやインストラクター ~さまざまなキャリアプラン~

ツアー会社は概ね、設立初期段階では経営者自らツアーを行ってガイドの役目を果たすことが多いですが、事業が成長していくにつれて、現場から離れ、もっぱら経営者として事業を行うガイドも存在します。ツアー会社を運営する経営者として求められるものは、通常の企業の経営者と同様であり、様々なことを考えていかなくてはなりません。マネジメントやマーケティング、営業、人材育成、労務など、同じガイド業を名乗っていても、実際の業務は全く違うことを行っているガイドも日本には存在します。ガイドと一口にいっても、実際のキャリアプランは多様であり、様々なことを行わなければならない職種ということもできるでしょう。

 

まとめ

SUPやカヤック、カヌーのインストラクターになるには、まず「なぜガイドやインストラクターになりたいのか」について、しっかりご自身の考えをまとめ、将来像を思い描いたうえで、スキルアップが目指せる会社やガイドにコンタクトをとることが初めの一歩です。漕艇のスキルだけでなく、安全の知見・経験を積み重ねている会社やガイドからは学ぶことが多くあり、真剣で誠実なお考えをお持ちの方であれば、独りの考え・経験では及ばないスキルを共有してもらえると思います。

 


一般社団法人 日本セーフティパドリング協会(略称 JSPA :ジェイ・エス・ピー・エー)は、日本におけるパドルスポーツの安全な普及を目的に1988年に設立された歴史ある組織です。(2022年3月、SUP、フィッシングカヤック、パックラフトなどの新たなジャンルのパドルスポーツの普及を踏まえ、旧称である 日本セーフティカヌーイング協会(JSCA)から名称変更をしました。)

パドリング技術と安全管理を熟知した会員が500人以上在籍し、北海道から沖縄県まで50を超える公認スクールがスクールやツアーを開催しています。当会では、パドルスポーツを楽しく安全に指導できるインストラクターを目指す方へ向けたインストラクター/ガイド検定制度と協会が定めた安全基準をクリアした事業者を認定する公認スクール制度を設けています。JSPAの公認スクールは、安全技術に関する意識が高く、ガイド・インストラクターを目指す方にとっても安心してスキルアップを目指すことができるでしょう。

世界でパドルスポーツが盛り上がるためには、素晴らしいガイド・インストラクターの存在が欠かせません。JSPAでは、ともに研鑽する仲間をいつでも歓迎します。インストラクター・ガイドに興味をもっている方は、下のリンクを参考に、まずは私たちにコンタクトをとってみてください。


JSPA公認インストラクター/ガイドになるためには:https://japan-safe-paddling.org/about-instructors-and-members/

JSPA公認スクール一覧: https://japan-safe-paddling.org/school/